自分のスキーマ(信念や心の癖)
今日は認知行動療法の取り組みについて考えてみたいと思います。
例えばAさん(25歳男性・無職)の事例から考えてみましょう。
Aさんの家庭は決して裕福でなく、欲しいものも買ってもらえなかったり、両親は自営をしているものの、パチンコ三昧で夜になると酒盛りが始まり、幼かったAさんは夜もあまり眠れない日々を過ごしていた。
やがて高校生になり、バイトでお金を稼げることを知ったAさんは一生懸命に夜中まで働いた。バイトから帰ると両親は泥酔しリビングで高いびきをかきながら寝ている2人を横目に自室へ戻る生活を3か月ほど続けた。
夜遅くまで働き、学校は遅くとも6時に起きなければ間に合わない。睡眠時間も4時間程で体力も限界を迎えていた。中学時代は「親のようにはなりたくない」と猛勉強をして念願の県内有数の進学校へ入学を果たすも、学業とアルバイト二束のわらじを履くことは容易ではなく、日中は眠気が強く勉強にも身が入らない。
家でも勉強する時間が取れないことから成績も急激に落ち、自身も喪失し通学も困難になりついには退学する。
その後自宅へ籠る生活を5年経験し、気分の良い日にある立ち寄ったコンビニで求人のポスターを目にしてアルバイトを始める。
仕事を始めたAさんは次第に元気を取り戻して行き、正社員として働きたいという思いが芽生え、20社以上の面接を受けるなかである壁に直面する。それは学歴という高い壁であった。
求人票に「学歴不問」「未経験者歓迎」と記載されているのにも関わらず、実際面接に行くと中退では….。経験がないのでは….。と言われたり、親身に話を聴いてくれたのに不採用通知が送られてくるなど現実は非常に厳しいものだった。
社会からも厳しい洗礼を浴びたAさんは、自信を喪失し自己否定や両親への激しい嫌悪感、社会への不満が募り、外出すら出来ない状況へと戻ってしまったのである。
再び自宅へ籠っても、その時感じた苦しい思いや自分の不甲斐無さなどが頭のなかで反芻(はんすう、繰り返す)します。寝ても覚めてもこの感覚が襲ってくるのです。気力、食欲、睡眠時間も減っていくのに対し、ネガティブな感情を想起する時間が増えていく一方です。現在Aさんの頭の中はネガティブ感情で埋め尽くされています。
この事例を見てあなたはどのように感じましたか?
この状況ならAさんがこうなるのも仕方がない。Aさんがかわいそう。とお感じになった方もおられることでしょう。
認知行動療法では頭の中で起きている感情を整理することから始めます。
実際にやってみましょう。
①裕福な家庭ではなく欲しいものも買ってもらえない
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②両親はパチンコ三昧、毎日酒盛り
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③アルバイトと学業の両立は困難、退学し家に籠る
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④学歴のせいで就職できない
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⑤社会の厳しさを知る
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⑥再び家に籠り、ネガティブ感情で心がいっぱい
要約すると①~⑤のようになります。(下矢印は時系列)これらがAさんの心に影響しているスキーマです。このように例えば自分史を作成し、簡潔に必要な情報を箇条書きすると今あなたに起こっている漠然とした悩みを捉えやすくなります。どうですか、簡単に「見える化」してみませんか?
スキーマは大きく分けて中核信念と媒介信念に分けることが出来ます。
中核信念とは古い(特に幼少期)過去の心の状態や育った環境に由来します。
媒介信念とは新しい心理・環境的経験から影響を受けます。
古い信念で固着化したものを変えていくにはそれなりに時間はかかると思いますが、比較的新しい信念は短期間で改善することができるかもしれません。
まずは苦しい思いを何とかしたいという気持ちが大切です。ご自身の出来ることから始めませんか。
みらい相談室では認知行動療法やマインドフルネス療法を用いて、あなたの心が少しでも軽くなるよう支援を行っております。悩みは抱えるものではなく手放すものです。お気軽にお問い合わせください。
泉田 公世